藤井風”LOVE ALL SERVE ALL, HELP EVER HURT NEVER”の由来

藤井風さんのアルバムタイトル”HELP EVER HURT NEVER“,”LOVE ALL SERVE ALL“の由来は、ファンの間ではサイババの言葉だったと言われています。
確かにこの言葉を調べてみると、サイババのサティヤサイにキャッチフレーズとして同じ言葉が挙げられていました。
サイババはなぜ?どこからこの言葉を掲げるようになったのでしょうか?
サイババはいったい何を教えていたのでしょうか?
『HELP EVER HURT NEVER』とよく似た言葉で「できる限り人を助け、たとえそれができなくても、他の人を傷つけることがないようにすること」という言葉があります。
このフレーズは有名で、私自身かなり前から知っていました。
実はこれ、アジアでは共通認識のような言葉なんですよね。
それはなぜなのか?
この道徳的思想のルーツはどこにあるのか?
気になるところですね。
藤井風さんの略歴
まず藤井風さんの略歴を振り返ってみます。
- 1997年(平成9年)6月14日生まれ
- 岡山県浅口郡里庄町出身
- 4人兄弟姉妹の末っ子
- 3歳からピアノを習い始める
- 12歳の頃にYouTubeに動画を公開
- 岡山県立岡山城東高等学校音楽学類に入学
- 2017年8月(当時20歳)テイラー・スウィフトの「Look What You Made Me Do」のカバー動画を公開
- 2019年初春に上京
- 2020年1月24日「何なんw」のMV公開した日がメジャーデビュー日
- 2020年5月20日1stアルバム『HELP EVER HURT NEVER』リリース
- 2022年3月23日、2ndアルバム『LOVE ALL SERVE ALL』をリリース
サイババが教えていたのは『インド聖典』の内容
サイババは『インド聖典』の内容を教えていたようです。
サイババは他の宗教についても知識があり、教えていたようですが、教えているのはその人の宗教との向き合い方です。
サイババの講話動画を調べてみると、バガヴァンやバガヴァッドなどたくさんの専門用語が出てきます。
バガヴァン(Bhagavān)はバガボンド(vagabond)の語源でもあり、宗教的尊者のことです。
バガヴァッドも同じ意味です。
バガボンド(vagabond)はフランス語では放浪者という意味になります。
サイババ自身もバガヴァンやスワミと呼ばれていました。
サイババは通常GODと言われることはあまりありません。
少しニュアンスが違うのです。
バガヴァンをなぜ紹介したのかというと、インド聖典ではこのバガヴァンやバガヴァッドがよく登場します。
世界的によく読まれているインド聖典のひとつに『バガヴァッド・ギーター』があります。
インド聖典はサンスクリット語で書かれているので、”LOVE ALL SERVE ALL, HELP EVER HURT NEVER“というまんまの言葉はどこにも出てきませんが、共通する概念が数多く出てきます。
インド聖典の由来
じゃあ、そのインドの聖典っていうのは一体なんなんだい?ってことなんですけど。
ヴェーダとは、記録にのこるかぎりインド最古の宗教文献群の総称である。 紀元前 1500 年ごろ、 インド・ヨーロッパ諸語のひとつである古インド・アーリア語(サンスクリット語)の話者たちが インド亜大陸に入り、前3世紀頃までの約1000 年以上にわたって、一大宗教思想文化を築き上げた。
インドにおけるヴェーダの伝承について
膨大なインドの聖典群はヴェーダと呼ばれます。
インド聖典ってインド人が作ったわけじゃなくて、紀元前1500年ごろからアーリア人が語り継いできたものなんですね。(びっくり)
紀元前1500年頃、原住地のコーカサス地方からイラン、アフガニスタンを経て、カイバル峠を越えてインドの西北、インダス川流域のパンジャーブ地方に入り、さらにガンジス川流域に広がった征服民族。
アーリヤ人 – 世界史の窓
インド聖典のルーツを辿っていくと、インダス文明にまで辿り着きます。
現代でも紛争が多い地域です。
アーリア人がインドにやってきて語り継いだ神話がヴェーダ文献になり、それがインドの倫理、道徳、生き方、全てを教える書になったようです。
アーリア人はインド方面にだけ移住したわけではなくヨーロッパ方面へも移住した説もあるようですが、事実であるかはわかっていないようです。
ですから、アーリア人が語り継いだ哲学とも言える神話は、やがてバラモン教やヒンドゥ教、そして仏教にも受け継がれていきます。
別に宗教を作るために哲学的神話ができたわけじゃなさそうです。
この膨大なお話を口頭で伝えてきたようですが、これでは話が崩れて伝わっていってしまうことを苦慮した哲学者ヴィヤーサが弟子にも手伝わせて書き残したと言われています。
Fitzgeraldによれば、ナンダ朝とマウリヤ朝の勃興(紀元前4世紀頃)、とくにアショーカ王(在位は紀元前3世紀頃)によるダルマの宣布により『マハーバーラタ』のテキスト化が開始され、紀元前2世紀中葉〜紀元後1世紀末頃に完成されたとみられる。このテキストは紀元後4世紀(グプタ朝期)にさらに拡張され、後代に伝えられるサンスクリット写本群の元となった。
マハーバーラタ
インド聖典『マハーバーラタ』がサンスクリット語でテキスト化されたのは、およそ起源前4世紀ごろから紀元後4世紀ごろまでとされている。
インド聖典はバラモン教や仏教の起源にも影響を与えているようです。
現代のインド映画もインド聖典の本質が込められた映画はたくさんあります。
話題の『バーフバリ』や『RRR』など、その他の多くの映画もインド聖典がモチーフになっているようです。
バーガヴァタ・プラーナに”HELP EVER HURT NEVER”の意味あり

“Oh sage! You always help and benefit all the persons, even without being asked.”
「賢者よ!あなたは誰に言われるでもなく、常に人を助け、恩恵をもたらすのだ。」と説かれている。

バガヴァッド・ギーターの英文の一節

あなたには奉仕の心がそなわっており、結果にこだわることなく行うことがあなたの喜びである。
『バガヴァッドギーター』は王位継承の神話の中で、王子アルジュナとクリシュナ神との対話形式で問答が続きます。
ヨーガの手引書でもあります。

バガヴァッドギーターには”色即是空 空即是色 不生不滅”など、般若心経と同じ概念も説かれいる。
ブッダも当然ながらインド文献から派生した思想で仏教を開いた。
もともとのルーツは同じなのですね。
インド文献には仏教と共通する概念が沢山書かれていました。
LOVE ALL SERVE ALLの由来

LOVE ALL SERVE ALLの由来は、ガンジーが唱えた非暴力=アヒンサーがルーツと言われています。
非暴力=アヒンサー(Ahimsa) は、これすなわち『すべてを愛し、すべてに仕える』ということを意味するそうです。
ガンジーが実際に言った言葉ではないようですが、ガンジーはこのような言葉を語ったようです。
最高の道徳とは、不断に他人への奉仕、人類への愛のために働くことである。
ガンジー|ガンジーの名言・格言
今でもガンジー系のアシュラムではLOVE ALL SERVE ALLが挙げられています。
LOVE ALL SERVE ALLはガンジーの言葉ではないが、ガンジーの思想が反映された英語の言葉だということですね。
SERVE はインド聖典の中でも度々出てくる言葉ですが、LOVE ALL SERVE ALLという英訳は私が調べたところなかったです。
SERVE ALLの概念としては度々出てきます。
日本語の『世話』の語源はSERVE(セヴァ)という説もあります。
世話が焼けるなどの別のネガティブな由来もありますが、江戸時代の頃に『世話をする』というポジティブな意味でも使われるようになったそうです。
クリスチャンに限らず、インドでも奉仕活動をセヴァといいます。
LOVE ALL SERVE ALLのヒンディ語は?
『LOVE ALL SERVE ALL』はインドでも普遍的な言葉として知られているようです。
ではヒンディ語でどのよう文字で書かれるのか知りたかったので調べてみまたところ、次の動画が参考になりました。
सब कुछ सेवा मान के भजन = bhajans of service to everything = すべてに奉仕するバジャン
と言う意味だそうです。
バジャンとは献身の歌、献身の歌を歌うことを意味します。
ヒンディだと”SERVE ALL”ではなく“SERVE EVERYONE”の文字の方が自然な言葉のようでした。
「すべてに奉仕する」と言う言葉はバガヴァッドギーターの中でも何度も出てくるフレーズです。
LOVE ALL SERVE ALLの由来はめちゃめちゃ深い!
インド聖典・バガヴァッド・ギーターを知る
難解だと言われる『バガヴァッド・ギーター』の内容をわかりやすく解説されています。
『マハーバーラタ』の概要やバラモン教とヒンドゥ教についても解説されているので初心者にはわかりやすい内容かと思います。
藤井風さんの歌の世界観もよく理解できるようになるかもしれません。
仏教とのルーツや共通点など、実際に私はいろんな発見がありました!

バガヴァッド・ギーターの原書の和訳解説本。
インド聖典とはどのようなものか?どんな哲学が込められているのかがわかる内容になっています。
これらの本を読んでみてわかるのが、宗教よりも前に哲学やヨーガ(ヨガ)があったことに驚きます。
仏教にももちろん影響を与えていますし、インド、深すぎる!
インドの人にとってインド神話は根幹をなすわけです。
聖典、それ以上だ!と言われるゆえんなのですね。
ちなみにサイババ関連の本も何冊か読んでみたのですが、ガチ信奉者と思われる著者が何人もいて、そういう人の本を読んでもあまり参考にはなりませんでした。
というのも、サイババには特別な霊能力があると本当に信じているようでした。
私はその部分には共感できないので、本質的な「教え」を知ろうと思うとインド聖典を読むのが正解でした。
これはサイババが講話で話している内容とほぼ一致するからです。

藤井風さんのメッセージはインド聖典が源泉?
- サイババが教えていたこと→インド聖典の内容
- ガンジーが活動指針としたもの→バガヴァッド・ギーターなどのインド聖典
- 藤井風さんの歌詞の源泉は?→ガンジーやサイババの教え→インド聖典の教え
- インド聖典には、ヒンドゥ教や仏教のルーツとなる教えがある
藤井風さんの曲が仏教的であったり、それより深い内容だったりするのは、やはり古代インド哲学であるインド聖典の影響が大きいようですね。
藤井風さんがスピリチュアルを大事にしていて、マントラを唱えていたり、インドにルーツがあったりする由縁がだんだん見えてきました。
なんかスケールが大きいです。

“HELP EVER HURT NEVER“,”LOVE ALL SERVE ALL“はどこから?
本を読んでいくと共通する概念は書かれてあるのですが、言葉そのままは書かれていません。
サンスクリット語の和訳ですし、英訳されたものも共通する概念は出てきますが、フレーズそのままというのはなかなか見つかりませんでした。
やはりガンジー以降の時代に英語でフレーズ化された説があるのかな。
サイババはガンジーから大きな影響を受けているそうです。
すなわち、インド聖典の教えを説いているので、時代が変わっても人が変わっても同じ概念、意味になるわけですね。
補足・豆知識
マントラとは?
まず“LOVE ALL SERVE ALL, HELP EVER HURT NEVER”はマントラだー!っと騒いでいる人がいるようですが落ち着いてください、
マントラとは真言という意味がありますが、そのほかには単純に『文字』や『言葉』という意味もあるのです。
お金、欲望、名声、これらもマントラ(言葉)といいます。
“LOVE ALL SERVE ALL, HELP EVER HURT NEVER”がマントラとされているのは真言というよりも(意義のある)言葉の意味で使われているのでしょう。
真言のようにチャント(一定のリズムと節を持ち祈りを捧げる)で読まれるわけではありません。
ちなみにヨガで異教徒の人がマントラを唱える時にどういう心境で唱えればいいのかというと、自分が信仰している対象に向けて唱えてもよいようです。
この辺りのエピソードは中谷美紀さんのインド旅行記から知りました。
ですから、マントラを聞いたり唱えることで信仰を侵害することはありません。
もちろん、本人がどう取り入れるかは決めればよいことです。
土・水・火・風・空という5つの基本元素の解説
バガヴァッド・ギーターには、世界の構成要素として『土・水・火・風・空』ということも書かれています。
藤井風さんのお兄さんが、空さん、お姉さんたちは陸さん、海さんというのはコアなファンなら知っていますよね。
インド聖典が由来なのかなと考えることができます。
映画『パッドマン』
『パッドマン』という映画の冒頭にサンスクリット語でバガヴァバッドギーター第4章の一説が出てくる。
インド人なら誰でも知っている言葉 「善が衰え、悪がはびこる時、私は生まれる。善人を救い、悪人を滅ぼし、正義を確立するために、私はユガの時代ごとに生まれる」
この映画、インドの女性用の生理用ナプキンが高くて買えないから格安のものを開発するという話。
みんなに頭が狂っってるといわれながら孤独になりながら、何度も失敗を繰り返してやっと成功する実話をもとにした話。
バガヴァッドギーターの精神が織り込まれています。
結構感動しました!
映画『バーフバリ』
『バーフバリ』も細かい表現が全部バガヴァッドギーターやヴェーダがベースにあることがわかる。
冒頭に象(エゴ)が暴れて勇者がそれを制する 火の矢を打ちエゴである敵を燃やして灰にする。
4頭の馬を走らせ手綱を持ち馬車が走る。
馬車は人間の精神構造の隠喩 五感(4頭の馬と馬車)をうまくコントロールしながら己を前進させる 。
五感とは視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚。
映画自体はそんなアホな!な大迫力のアクションの連続ですが、ベースにはインド神話の真髄がこめられていました。
信仰心があればいつの時も運命は変えられる。
ダイナミックなインド史劇らしい映画でした!
映画『マトリックス』
超有名な映画『マトリックス』は全編インド哲学をベースに作られていることがわかります。
この種明かしは3作目の『マトリックス・レボリューションズ』で明かされます。
サウンドトラックがインドのマントラの連句になっています。
“These are our ancient couplets of wisdom mentioned in Upanishads. Sacred books of Hindu/Indian culture.”
(これらは、ウパニシャッドで言及されている古代の知恵の連句です。ヒンズー/インド文化の聖典)
“Never thought that the words that we learnt in school prayers will have an impact like this. Hindu scriptures have all the knowledge there is to know , just that we are not ready to decode that still. So proud!”
YouTubeコメント欄より
(学校の祈りで学んだ言葉が、これほどまでに影響を与えるとは思いもしませんでした。 ヒンズー教の経典には、知るべき知識がすべて含まれていますが、まだそれを解読する準備ができていません。 とても誇りに思います!)
もっともわかりやすいマントラのひとつ『OM SHANTI SHANTI SHANTI』 は『Peace Peace Peace』という意味です。
劇中のネオ(キアヌ・リーブス)は劇中で欲しいもの、望みは「平和だ」と言います。
ネオは現実世界ではハッカーでした。
ハッカーはあまりいい存在ではないですね。
インドの古い英雄物語『ラーマーヤナ』には、盗賊が聖者と出会い、やがて詩人、哲学者になる話が書かれています。
『ラーマーヤナ』もマトリックスの参考になっていると思われます。
ネオは自分が救世主かどうか信じることができない。
モーフィアスと会話をし、預言者と会話をし、トリニティと出会い、自分が何者なのかを徐々に自覚していく。
マトリックスの世界は人間の脳内のいわば幻想世界。
幻想と知らずに生きている人たちの中で、
「覚悟を決めて極めれば不可能なことはない」 というメッセージが込められている。
これは、『人の内側には神聖なものが存在する。人の神聖を信じて、結果にこだわらずに行動することが大事だ』というインド哲学に通じます。
マトリックスは『エゴイズムやネガティブこそが己を不安にさせ、争いを起こす元凶だ』というメッセージも含まれています。
スミスはネオが作り出したネガティブな側面であり、己の心のネガティブを消し去ることでスミスに打ち勝つことができるのです。
「敵はネガティブな自分自身」
ネオは最後は蓮の花のような形の光の集合になって解脱していきます。
トリニティの意味はキリスト教なら三位一体、サンスクリット語の『トリムールティ』は、三神一体を意味し、ブラフマーとヴィシュヌとシヴァのことです。
創造、維持、破壊という機能がある。
マトリックスのトリニティは映画では一つのキーとなる人物です。
まつりのMVで藤井風さんが馬に乗るのはなぜなのか?
馬車は人間の精神構造の隠喩 五感(4頭の馬と馬車)をうまくコントロールしながら己を前進させる 意味があることは、バーフバリのところでも紹介しました。
馬の手綱を持つとは、心を繋ぐという意味があるのです。
馬に乗るという演出が『まつりMV』で意図して表現したのもかはわかりませんが、歌詞の意味を考えても興味深い考察ができます。
まとめ
ルーツを辿ったらなんだか凄すぎた。
“LOVE ALL SERVE ALL, HELP EVER HURT NEVER”の由来を追求したら、人類の思想・哲学・宗教の起源的ルーツまで辿りました。
これらの言葉の概念は神話の中の一部で、解脱するには具体的に何をすべきかの一説として出てきます。
そうすればあなたの心は浄化されクリシュナに助けを受けることができますと。
これをもっと道徳的、社会的な意味で広めたのがガンジーやサイババというわけですね。
誰の言葉なのかとこだわる必要はない。
“LOVE ALL SERVE ALL, HELP EVER HURT NEVER”は、人間のあるべき姿なのかもしれません。
アルバムタイトルの言葉のルーツを知った後にアルバムを聴き直すと、また何か新しい発見があるかも知れません。